アタシはホットケーキの素。 今日は恋するノリちゃんに、ふんわりとしたケーキを作ってもらうの。 おうちに大好きなハヤト君が来るんだって。 ノリちゃん、ちょっと緊張気味─── だけど、がんばれ! アタシは箱からボールへ入れられた。 もうもうと煙が立つ。ノリちゃん、ちょっとムセてる。 アタシはボールの中からノリちゃんを見上げた。箱の裏を見ながらカップに牛乳を入れてる。 「きゃ、つめたい!」 アタシは身を縮めて固まった。 一瞬、思考も止まっちゃったんだ。 そのため、アタシは気づかなかった。ノリちゃんがやったスゴイことに─── ノリちゃんは泡立て器で、くるくるアタシを回してくれた。 止まってた思考が戻ってくる。 くるくる、くるくる───やさしく、やさしく───なめらかに回り続けるアタシ────アー気持ちイイ─── それから、ぎこちない手つきでノリちゃんはアタシを泡だてはじめた。 シャカ、シャカ、シャカシャカ─── 「?」 どうしたんだろう。もう固まってもいいころなのに。 アタシはノリちゃんを見上げた。 不安そうな表情。ノリちゃんは手をとめて箱を手に持った。 「あ!」 すると、ノリちゃんの大声。 「カップ7分目って書いてある!」 も、もしかして───? 揺らめく膜の向こうに、ノリちゃんが見える。泣きそうにゆがんでる。 アタシはジッと見つめて待った。ノリちゃんのくちもとに目を凝らしながら─── 「牛乳、7杯入れちゃった……」 アタシは大きなため息をついた。 「どーすんのよ。アタシ何のためにここにいるのかわかんないじゃない」 |