アタシはホットケーキの素。
 今日は恋するノリちゃんに、ふんわりとしたケーキを作ってもらうの。
 おうちに大好きなハヤト君が来るんだって。
 ノリちゃん、ちょっと緊張気味───
 だけど、がんばれ!
 アタシは箱からボールへ入れられた。
 もうもうと煙が立つ。ノリちゃん、ちょっとムセてる。
 アタシはボールの中からノリちゃんを見上げた。箱の裏を見ながらカップに牛乳を入れてる。
「きゃ、つめたい!」
 アタシは身を縮めて固まった。
 一瞬、思考も止まっちゃったんだ。
 そのため、アタシは気づかなかった。ノリちゃんがやったスゴイことに───
 ノリちゃんは泡立て器で、くるくるアタシを回してくれた。
 止まってた思考が戻ってくる。
 くるくる、くるくる───やさしく、やさしく───なめらかに回り続けるアタシ────アー気持ちイイ───
 それから、ぎこちない手つきでノリちゃんはアタシを泡だてはじめた。
 シャカ、シャカ、シャカシャカ───
「?」
 どうしたんだろう。もう固まってもいいころなのに。
 アタシはノリちゃんを見上げた。
 不安そうな表情。ノリちゃんは手をとめて箱を手に持った。
「あ!」
 すると、ノリちゃんの大声。
「カップ7分目って書いてある!」
 も、もしかして───?
 揺らめく膜の向こうに、ノリちゃんが見える。泣きそうにゆがんでる。
 アタシはジッと見つめて待った。ノリちゃんのくちもとに目を凝らしながら───
「牛乳、7杯入れちゃった……」
 アタシは大きなため息をついた。
「どーすんのよ。アタシ何のためにここにいるのかわかんないじゃない」


終わり



これは一応「273年後の私」シリーズの主人公ノリコの番外編のつもりで書いたものです。(^^)
でも、実はこれは『実話』だったりします。(^_^;)
天慈の正体を知る者は誰でも知っているエピソードの一つです。
しかし、10歳のちっちゃな女の子がやったならば「まっカワイイ」ですまされるんでしょーが、なんとまあ、あろうことか、天慈がウレシハズカシの高校生の乙女の時にやらかした顛末だったんですね。(-_-;)
まあ、大好きな人に食べさせるために、というてんだけが違っておりますが……。
しかし、なんと健気なことにうちの弟は、得体の知れないものと化してしまったホットケーキというよりはお好み焼きのようなモノを「わりかしイケるじゃん」といいつつ食べてくれはりましたんで。くくくく…なんつーイイやつだ……。
みなさん、料理にしろ、パソコンにしろ、使うときにはキチンと説明書を読んで、よく把握してから着手しましょうね。(って、いまだに勢いだけで突き進んでる天慈でありやすが……^^;)



 



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